2006年下半期

2006/10/25 ハリー・ポッターのマント、それともスタートレック遮蔽装置

 不可視な遮蔽、言い換えると物質の透明化が原理から一歩踏みだした。ハリー・ポッターの透明マントやスタートレックの不可視な遮蔽装置(cloaking
device)のメカニズム仮説は、すでにイギリスの研究者が発表していた。その原理とは、光波(あるいは電磁放射)を物体の周囲に導き、あたかもその物体によって散乱していないように進ませることである。

 アメリカ・デューク大などの研究グループが、特殊な微細構造の金属素材で物体を囲うことにより、物体に当てた電磁波を反射させずに裏側へ迂回(うかい)させる実験に成功した。

 この研究は、電磁放射線から物体を隠す原理を立証する初の遮蔽装置で、磁放射線が排除、回避され、あたかも存在していないような空間を作り出した。しかしまだ、不完全で二次元レベルの実験に過ぎないが、それでも後方散乱(反射)および前方散乱(影)双方を減少させることができる(ビデオ参照)。

デューク大学のプレスリルースプレスリリースは下記のサイトで読める。
http://dukenews.duke.edu/2006/10/cloakdemo.html

ビデオ:研究チームによる説明と装置、透明化の実験経過などを下記のサイトで見ることが出来る(ビデオを見るためにはReal
Playerが必要)。
http://realmedia.oit.duke.edu/ramgen/news/invisibility.rm

リアル・プレーヤー(Real Player)がない場合は下記のYoutubeでも見ることが出来る(ただし、画質が悪い)。
http://www.youtube.com/watch?v=Ja_fuZyHDuk

【原著】

Schurig, D. et al.: Metamaterial Electromagnetic Cloak at Microwave Frequencies. Science. Online Oct. 19, (2006) [doi: 10.1126/science.1133628] (Science Express Reports)



2006/10/22 チャールズ・ダーウィンの資料電子化・公開

 進化論で知られるイギリス科学者チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin )の文献や資料などを電子化し、ネットで公開された。「ビーグル号航海記」や「種の起源」を読むことができる。

 2009年は、ダーウィンの生誕200年と、進化論のきっかけとなった「種の起源」の出版150周年にあたる。そこで、この年までに2年をかけ、ほぼすべての資料を電子化して公開する予定とのことである。

ダーウィンの文献・資料を公開しているサイトは下記である。
http://www.darwin-online.org.uk/



2006/10/16 最小ゲノムを持つ共生細菌の発見

 生物が生きるために最低限必要なゲノムはいったいどのくらいなのか?

 理研中央研究所などの研究グループは、半翅目昆虫「キジラミ」に共生する細菌「カルソネラ」のゲノムがたった16万塩基対であることを発見した。これは、これまで知られている生物界のゲノムのなかで最小である。

 カルソネラは、キジラミの特殊な細胞(菌細胞)の細胞質内で生きており、この細胞の外では生存していけない。そのため、現在のカルソネラは2億年前に菌細胞内に侵入し、キジラミの親から子へと垂直感染することだけで生き続け、受け継がれてきたと考えられている。

 発見したゲノムは、単に遺伝子の数が少ないだけではなく、遺伝子の長さが短く、さらに遺伝子同士がオーバーラップしているという、これまでに知られていなかった極限まで切り詰められた特殊な構造をしていた。ゲノムからは生命活動を維持するのに必須と思われる遺伝子の多くが失われているが、失った分を昆虫の遺伝子や代謝産物に依存していると考えられる。

 今回の発見によって、かつては共生細胞だったと考えられているミトコンドリアや葉緑体はどのように細胞小器官になったのかについての疑問の回答にもなると期待されている。

【文献】

Nakabachi, A. et al.: The 160-Kilobase Genome of the Bacterial Endosymbiont Carsonella. Science 314: 267. (2006) [doi: 10.1126/science.1134196]



2006/10/15 南アメリカ・コロンビアで新種の鳥を発見

 南アメリカ・コロンビアの密林地帯で、頭のてっぺんがオレンジ色、目の回りは黒色で、のど元から腹部にかけて黄色というカラフルな新種の鳥が見つかった。ヤブシトド(Brush-Finch)の仲間で、手のひらににすっぽり収まる大きさの鳥で、コロンビア北東部のサンタンデル州の密林地帯で見つかった。名前は、かつてこの地域で暮らしていた先住民族の名をとり、ヤリギエスヤブシトド(Yariguies Brush-finch)と名付けられた。

【文献】

Donegan, T. M. & Huertas, B.: A new brush-finch in the Atlapetes latinuchus complex from the Yariguies Mountains and adjacent Eastern Andes of Colombia. Bulletin of the British Ornithologists' Club 126: 94-116. (2006)

http://www.proaves.org/IMG/pdf/Donegan_Huertas_Atlapetes_latinuchus_yariguierum.pdf



2006/10/13 国際稲研究所が研究目標を転換:貧困の解消を目指す

 国際稲研究所(IRRI:本部フィリピン)は、かんがい地帯での稲作改善を目標としてきた方針を見直し、かんがい設備にない地域での稲作改善を重点目標とする「希望を呼び込み、豊かな暮らしを」と題した戦略計画(2007~2015年)を発表した。こうした地域は貧困が深刻なため、干ばつや水害、塩害に耐える品種の育成により生産安定を図り、貧困の解消を目指す。

国際稲研究所の新しい研究戦略は下記のサイトで読める。
http://www.irri.org/BringingHope/ImprovingLives.pdf?id=138



2006/10/05 簡単に渋皮むけるクリ品種「ぽろたん」の育成

 渋皮がぽろっとむける新品種「ぽろたん」が農研機構果樹研究所で育成された。甘栗のように渋皮がむきやすいニホングリの新品種の育成は画期的な成果である。クリの実を加熱したあと、渋皮がポロンと簡単にむけることから、「ぽろたん」と名付けられた。

 ただし、これからな苗木として販売され、実がなるまでに時間がかかるので、くりご飯や菓子の具など秋の味覚を手軽に楽しめるヨウになるまでは、早くて7,8年後となる。

渋皮が簡単にむける画期的なニホングリ新品種「ぽろたん」のプレスリリースは下記にある。
http://www.fruit.affrc.go.jp/announcements/kisya/h18-10-04/porotan.pdf



2006/10/04 ノーベル物理学賞:ビックバン理論の証明に

 今年度のノーベル物理学賞は、アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのジョン・マザー博士(John C. Mather: 60)とカリフォルニア大のジョージ・スムート教授(George F. Smoot: 61)が受賞した。

 受賞理由は「宇宙背景放射の不均一性の発見("for their discovery of the blackbody form and anisotropy of the cosmic microwave background radiation")」である。1989年に打ち上げられた観測衛星COBE(コービー)で、宇宙全体から届くマイクロ波(宇宙背景放射)を観測し、宇宙が爆発的に膨張して生まれたとするビッグバン理論を観測で裏付けたことと、放射が全天から均一に来るのではなく、10万分の1レベルの温度の違い(ゆらぎ)があることを発見した。

ノーベル財団のサイトは下記にある。
http://nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2006/



2006/10/03 「RNA干渉」の発見にノーベル医学生理学賞

 スウェーデンのカロリンスカ研究所は、2006年のノーベル医学生理学賞をアンドルー・ファイアー(Andrew
Z. Fire)・スタンフォード大医学部教授(47)と、クレイグ・メロー(Craig C.
Mello)・マサチューセッツ大教授(45)の2氏に授与すると発表した。

 生物の遺伝情報を伝える役のRNA(リボ核酸)が対になった「二重鎖RNA」で、遺伝子の発現が阻害される「RNA干渉」という現象を線虫で発見し、1998年に発表した。この現象は人間にも共通しており、二重鎖RNAを人工的に作ることで新薬開発などに道を開いたことが評価された。

 当初、この研究は特殊な現象と考えられ、生体内では働かないと思われ、マユツバな研究とされた。ところが、最近では、網膜の加齢黄斑変性症やC型肝炎、エイズ、ガン、ホルモン異常などの治療薬の研究へと発展している。

 今回のノーベル賞受賞対象の研究も当初の評価は低かった。このことは、研究を1年単位で評価することが誤りであることを示している。

ノーベル財団のプレスリリースは下記のサイトで読める。
http://nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2006/



2006/10/01 火星探査車オポチュニティーはまだ元気に活躍

 火星の地表を調査しているアメリカ航空宇宙局(NASA)の無人探査車オポチュニティー(Opportunity)が、9月27日から28日にかけてビクトリア・クレーターの端に到着した。火星に着陸(2004年1月)してから火星時間で952日(約31ヶ月)かけて移動した。このクレーターは幅800m、深さ70mで、砂丘で覆われているが一部、岩石が露出しており、ででこぼこしている壁が見える。

ビクトリア・クレーターの写真は下記のサイトで見られる。
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA08783

 「地質学者の夢が実現するかも知れない。壁にある地層を調べられるなら、火星の環境に関する新しい発見があるのではないか」と、コーネル大学のSteve Squyres 博士は述べている。

 同時期に着陸したスピリット(Spirit)は、火星の砂とほこりに苦戦しているようである。2006年4月4日の様子が下記のサイトで読める。
http://www.nasa.gov/mission_pages/mer/mer-20060404.html

 探査機の寿命3カ月と考えられていたが、2年半以上も探査を続けている。当初、太陽電池パネルに砂ぼこりが積もって動かなくなると見られていたが、強風で砂ぼこりが払われるなどして寿命が延びているらしいとのことである。







2006/09/17 ネアンデルタール人と現生人は長く共存

 約3万年前までに地上から姿を消したと考えられていたネアンデルタール人が2万8000~2万4000年前まで生存していたことを示す証拠がイベリア半島で発見された(文献1)。

 このことは、現生人(現代型ホモ・サピエンス)の進出で滅んだとする従来の考え方を覆し、現生人との共存が数千年にわたって続いていたことを示す結果である。

 国際研究チームは、イベリア半島南部ジブラルタル沿岸の洞窟(どうくつ)から、ネアンデルタール人の文化を示す石器類103個と火の使用跡を発見、地層中の放射性炭素などの分析で年代を特定した。

 この科学的発見は、色々な想像を喚起する。ネアンデルタール人と現生人の交流はあったのか。コミュニケーションは可能だったのか。ネアンデルタール人は環境不適合などで自滅したのか、それとも、現生人に滅ばされたのか。食料を取り合ったのか。などなど。共存していた時代のそれぞれの文化程度の差も知りたいと思う。

 南カリフォルニア大学のPlagnolらの研究では、ヨーロッパ人はネアンデルタール人の遺伝子を受け継いでいるのでないかと示唆している(文献2)。科学的に大変面白い状況になっている。

【文献】

1) Finlayson, C. et al.: Late survival of Neanderthals at the southernmost extreme of Europe. Nature Online Sep. 13 (2006) [doi: 10.1038/nature05195]

2) Plagnol, V. etal.: Possible Ancestral Structure in Human Populations. PLoS Genetics 2: e105. (2006) [DOI: 10.1371/journal.pgen.0020105]



2006/09/08 世界一高い木見つかる

 先月、アメリカ・カリフォルニア州北部にあるレッドウッド国立公園内で、世界一高い木が、Chris AtkinsとMichael Taylorにより 発見された。高さは378.1フィート(115.2m)で、ギリシャ神話の神の名を取って「ヒュペリオン(Hyperion)」と命名された。

 ギネスブックに記載されている最長の木は「ストラトスフィア・ジャイアンツ(Stratosphere Giant)」(112.5m)である。また、自由の女神像は93mである。

参照サイト

1)http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2006/09/07/MNGQRL0TDV1.DTL&hw=redwood&sn=001&sc=1000

2)http://www.nativetreesociety.org/bigtree/new_worlds_tallest.htm








2006/08/28 育児で父親の前頭葉の神経回路に変化
 霊長類マーモセット(キツネザル)を用いた研究で育児を始めた雄は、神経細胞の構造が変わっていくことをアメリカ・プリンストン大学の研究グループが発見し発表した。

 マーモセットは、雄が育児をすることで知られている。赤ちゃんを背負うなど積極的に育児をし、特に生後1カ月は、雄が生活の7割以上の時間を赤ちゃんと過ごす。

 研究グループは、育児中の雄と、そうではない雄の脳の領域を比べた結果、子育て中の雄は、バソプレシンという物質の受容体タンパク質が増えていた。

 バソプレシンは、「きずな」「情愛」などとかかわりが深い信号を伝える働きがあり、例えばネズミの脳でこのタンパク質を増やすと、1匹の雌を好み、他の雄を攻撃するようになったという報告がある。マーモセットの観察では、タンパク質は、子の月数が少ない雄ほど多かった。

 さらに、神経細胞の細胞同士がつながる構造も、密度が高くなる変化が生じることがわかった。父と子のきずなが強まると、子育てにふさわしいきめ細かな神経回路ができていく可能性があることを示していると研究者らは述べている。

【文献】

Kozorovitskiy, Y. et al.: Fatherhood affects dendritic spines and vasopressin V1a receptors in the primate prefrontal cortex. Nature Neurosci. Online 20 Aug. (2006) [doi: 10.1038/nn1753]



2006/08/26 人工塩基を挿入したDNAを複製

 DNA(デオキシリボ核酸)の遺伝情報を担う塩基配列に、自然界には存在しない人工塩基を組み込み、このDNAを大量複製すること成功したと、理化学研究所の平尾一郎チームリーダーらの研究グループが発表した。これまで、人工塩基対に関する研究は行われていたが、人工塩基対を組み込んだDNAの複製技術の開発は世界で初である。
 DNAは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の塩基からできており、二重らせん構造に形成している。この4種類の塩基の並び方の中に遺伝情報が書き込まれている。

 DNAに書き込まれた遺伝情報からタンパク質ができる過程の最初の段階はDNAの「複製」である。次いで、「転写」、「翻訳」という過程を経て生体内でタンパク質が合成される。

 今回、人工塩基「Ds」と「Pa」の2種類を化学合成して、「Ds」と「Pa」が対になるようにDNAに組み込み、人工塩基対を組み込んだDNAをPCRという装置を使って増幅したところ、この人工DNAが「複製」された。

 この技術は画期的である。この技術を使えば、従来の遺伝子組み換え技術では不可能な、人工アミノ酸を組み込んだタンパク質を作り出すことができる。そのため、この技術は新薬の開発など病気の治療に役立つ可能性がある。

 しかし、今までにない新しい遺伝子を持った新生物につながる技術でもある。例えば、人工DNAが複製できることから、L型アミノ酸からできているタンパク質が生命の源であるが、タンパク質がD型アミノ酸で構成されている新しい生命体を作り出せる可能性もある。

 画期的な技術なので倫理的問題を考慮して慎重に実験、研究を続けてほしい。従来の遺伝子組み換え技術開発に求められている実験・倫理規定よりさらに厳しい実験・倫理規定を作って研究を行わないと研究を進められなくなることも考えられる。特に、大腸菌などの生命体を用いた実験は慎重に進めてほしいと思う。

【文献】

Hirao, I. et al.: An unnatural hydrophobic base pair system: site-specific incorporation of nucleotide analogs into DNA and RNA. Nature Methods 3: 729-735 (2006) [doi: 10.1038/nmeth915]



2004/08/25 太陽系惑星は8個、冥王星をはずす

 国際天文学連合(IAU: International Astronomical Union)は、8月24日の総会で「惑星の定義」と「冥王星クラスの定義」を賛成多数で採択した。1930年の発見以来76年間、第9惑星の座にあった冥王星を惑星からはずすした。教科書を書き換える歴史的な出来事である。

 太陽系惑星の定義は、太陽を周回し、自らの重力で球状となり、軌道周辺で、圧倒的に支配的な天体とした。

国際天文学連合のプレスリリースは下記のサイトで読める。
http://www.iau2006.org/mirror/www.iau.org/iau0603/index.html

国立天文台による太陽系の惑星の定義確定のニュースは下記のサイトで読める。
http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000233.html

 「教科書を書き換える」のは、科学者の夢の一つであるが、今回はいつもと少し様子が違った。普通であれば、科学者が通説に対し研究結果を基に新説を発表し、その説が受け入れられると専門書で学説の変更が行われる。その後時間がたち専門家の間で定説になるとそれを受けて教科書が変更される。

 従って、教科書が変更される場合に議論がおきることは少ない。今回は、学説の変更とは異なり、定義の変更であったので混乱が起きたのかも知れない。



2006/08/23 数学の国際賞受賞者の発表

 国際数学連合(IMU: International Mathematical Union)は、8月22日スペイン・マドリードで、数学のノーベル賞と言われる「フィールズ賞」、理論計算機科学分野での優れた研究に贈る「ネバリンナ賞」、数学の応用に関する最高の貢献者をたたえる「ガウス賞」の三つの国際賞を発表した。

 第1回のガウス賞の受賞者は、確率論の伊藤清・京都大名誉教授(90)である。伊藤氏は「ともに数学の研究にいそしんできた仲間はもちろん、私の想像を超えた領域にまで成果を応用された方々とも、喜びを分かち合いたい」とコメントしている。

 また、フィールズ賞には、100年来の数学の超難問の一つ「ポアンカレ予想」を解決したとされるロシアの数学者グレゴリー・ペレルマン氏(40)とアメリカ・プリンストン大のアンドレイ・オクニコフ教授(37)、カリフォルニア大ロサンゼルス校のテレンス・タオ教授(31)、フランス・パリ南大のウェンデリン・ウェルナー教授(37)の4人が選ばれたが、ペレルマン氏は受賞を辞退した。

 ネバンリンナ賞はアメリカ・コーネル大のジョン・クレインバーグ教授(35)が受賞した。ガウス賞には年齢制限はないが、フィールズ賞とネバンリンナ賞の対象者は40歳以下と定められている。

IMU国際賞のサイトは下記にある。
http://www.mathunion.org/medals/

 ペレルマン氏は、「有名でなかった頃は(数学者の職業について)何を言っても大丈夫だったが、有名になると何も言えなくなってしまう。だから数学を離れざるをえなかった」と受賞辞退の理由を述べたと朝日新聞が報じている(06/8/22)。

 ペレルマン氏の生き方は、科学者の理想の一つではないか。ただ、「ペレルマン氏は現在無職で、サンクトペテルブルクの郊外で母親と生活している。わずかな貯金と元数学教師の母親の年金だけが生活の糧で、『(授賞式が開かれる)マドリードに行く費用もない』という。」との記事が掲載されていた。ペレルマン氏の望みをかなえるだけの生活費はあるのだろうか。もし不足しているなら何とかならないのだろうか。



2006/08/21 インターネットの怖さ

 科学的な記事の検討を行うためには一次資料(文献)に当ることは必須である。しかし、「病気にならない生き方」の著者、新谷弘実氏はそれを怠ったのであろう。文献に当たっていれば、「米国人7万8000人を12年間追跡し牛乳を飲むほど骨粗鬆(こつそしょう)症になる関係を明らかにしたハーバード大の研究がある」とはしないだろう。文献の要約を読むだけでもそのことは分かる。

 この論文の都合の良い誤訳は、初めてではなくトンデモ本の世界では有名なようだ。「だれもが100%スリム!常識破りの超健康革命」(松田麻美子 著)などにも引用されている。誰かが誤報と知りつつインターネットに流したのではないか。

 インターネットの怖いところは、コピー&ペーストで広がると誤訳でもそのまま記事として通用してしまうところにある。そのため、文献に当たるという原則を忘れ、インターネットの検索だけで判断すると、誤った結論に達してしまう。「自分で確かめること」の大切さを改めて思った。



2006/08/20 牛乳は人に大切な食材である

 毎日新聞が、牛乳を有害とする「病気にならない生き方」(新谷弘実著:サンマーク出版)を取り上げた。このことに対して、その非科学性について仁木良哉北大名誉教授の批判が下記の毎日新聞のサイトに掲載されている。当然の反論であり、牛乳は人に大切な食材である。

毎日新聞のサイト
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/hokkaido/shoku/
gyunyu/news/20060801hog00m100003000c.html


・牛乳は子牛が飲むもの。人間が飲むのは自然の摂理に反する

 仁木 子牛のための牛乳と食品としての牛乳の意義を混同している。人類は牛を紀元前数千年前から家畜化し、牛乳を食べ物として利用してきた。牛乳は気候条件や土壌に恵まれない国や地域の人々の命を支えてきた。この優れた食品である牛乳の利用がなぜ自然の摂理に反するのか。

 仁木氏の反論は当然だろう。非科学の典型的な言い回しで、科学的根拠など全くない。自然の摂理を明らかにするのが科学ではないのか。

・米国人7万8000人を12年間追跡し牛乳を飲むほど骨粗鬆(こつそしょう)症になる関係を明らかにしたハーバード大の研究がある

 仁木 その論文には「牛乳を飲むほど骨粗鬆症になる」とは書かれていない。牛乳の摂取によって骨折のリスクが減る証拠はないと結論づけているが、日本人の1日所要量に相当するカルシウム(600ミリグラム)を摂取したグループと、それ以上摂取したグループとを比較しており、カルシウム摂取量が所要量まで平均していっていない我々日本人には意味のないデータだ。自分の主張に都合良く訳している。

 上記の論文は、Feskanich, D. et al.: Milk, dietary calcium, and bone fractures in women: a 12-year prospective study. Am. J. Public. Health. 87: 992-997. (1997)であり、仁木氏の指摘の通りである。記者は、記事にする前にこの点を自身で確認しているのだろうか。

 さらに付け加えるなら、同じグループが骨粗しょう症の発症リスクの制限因子はビタミンDであるとする論文を2003年に発表しており、そこにも「牛乳を飲むほど骨粗しょう症になる」とはどこにも記載されていない。この論文はFeskanich, D. et. al.: Calcium, vitamin D, milk consumption, and hip fractures: a prospective study among postmenopausal women. Am. J. Clin. Nutr. 77: 504-511. (2003)である。



2006/08/17 学習に使われた神経細胞は生き残る

 大人になっても神経細胞は新たに生まれ、学習や記憶に使われた神経細胞だけが生き残って神経回路に組み込まれる可能性が高いとアメリカ・ソーク研究所の研究グループが発表した。

 マウスを用いて学習や記憶にかかわる脳の領域で、遺伝子操作技術により新たに生まれる神経細胞見分けられるようにした。同時にこの神経細胞で特定の神経伝達物質の受容体(NMDA-receptor)が働かず、情報を受け取れないようにしたマウスもつくった。

 両方のマウスを比べると、情報を受け取れなくしたマウスでは、新たに生まれた神経細胞の生存率が4分の1に低下していた。このことから、情報を受け取れない細胞は死に、情報を受け取った細胞が生き残り神経回路に組み込まれることが分かった。

 以上のことから、大人になっても新たにできる神経回路には、学習した特定の情報が刻みこまれていると考えられた。

【文献】

Tashiro, A. et al.: NMDA-receptor-mediated, cell-specific integration of new neurons in adult dentate gyrus. Nature online 13 Aug. (2006) [doi: 10.1038/nature05028]



2006/08/15 マイナス20℃で15年凍結のマウスの精子から子ども

 マウスの体をまるごとマイナス20℃の冷凍庫で15年間凍結し、解凍後に取り出した精子を使って子どもを誕生させることに、理化学研究所などの研究チームが成功したと発表した。この技術を使えば、マンモスなど絶滅動物でも永久凍土などに体が残っていれば、精子を近縁種の卵子に入れ、子どもを作れるのではないかと期待されている。

 従来の精子の保存は、精巣から精子を取り出して保存液に浸し、液体窒素を使ってマイナス196℃で凍結していた。研究チームは1991年から15年間、マイナス20℃に保存されていたマウスの精巣を取り出して解凍、その中の精子を顕微鏡下で新鮮な卵子に注入(顕微授精)して214個の受精卵を作った。これを雌マウスに移植した結果、29匹の子どもが生まれ、うち27匹が無事に育ち、その子どもも正常に誕生した。

 また、マイナス80℃で1年間凍結した別のマウスでも解凍して取り出した精子を使って子どもを誕生させることに成功した。

【文献】

Ogonuki, N. et al.: Spermatozoa and spermatids retrieved from frozen reproductive organs or frozen whole bodies of male mice can produce normal offspring. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (in press)



2006/08/11 卵子を使わない万能幹細胞のマウスから作成

 卵子や受精卵(胚)を使わず体細胞だけから、さまざまな組織の細胞に分化する能力を持つ万能幹細胞を作り出すことに、京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らがマウスで成功したと科学研究雑誌に発表した。

 将来、ヒトの体細胞で実現すれば、拒絶反応のない臓器移植や再生医療、新薬開発など幅広い応用につながることが期待されている。卵子や胚を使うES細胞には倫理的な問題があるが、この細胞を使ってもクローン動物作成にはつながらないという。

 皮膚や臓器などに分化した細胞を胚の状態に若返らせ、分化能力を呼び戻すことを「初期化」というが、研究グループは、ES細胞と体細胞を融合すると体細胞で初期化が起こることから、ES細胞の中で初期化に必要な遺伝子が働いていると考えた。

 そこで、マウスのES細胞で特異な働きをする24の遺伝子を調べ、初期化に不可欠な四つ(Oct3/4, Sox2, c-Myc, Klf4)遺伝子を突き止めた。マウスの皮膚細胞にこれら遺伝子を導入すると、ES細胞とよく似た細胞ができ、iPS細胞(誘導多能性幹細胞)と名付けた。

 この細胞をマウスの皮下に注入すると、神経、筋肉、軟骨などさまざまな種類の細胞や組織を含むこぶができた。容器内でも心筋、皮膚、肝臓の各細胞に分化し、万能性を持つことが確認された。

【文献】

Takahashi, K. & Yamanaka, S.: Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors. Cell online Aug. 10. (2006)



2006/08/06 脳内の食事の時間を記憶する遺伝子

 マウスを使って脳内の遺伝子が餌を取る時間を記憶し、餌を食べるよう指令を出す体内時計遺伝子を見つけたとアメリカ・テキサス大学の研究チームが公表した。この時計遺伝子と食欲の関係を解明すれば、肥満予防対策に役立つという。

 マウスは夜行性で、夜に動き回って餌を食べるが、昼にだけ餌を与えると昼と夜が逆転する。この時のマウスの脳を分析した結果、食欲に関係するとされる脳の背内側核(はいないそくかく)で、時計遺伝子が餌の時間に合わせて24時間周期で動いていることを突き止めた。

 肥満の人は1日のカロリーの半分以上を夜間に食べる「夜型」が、正常人の40倍多いことから、夜型から昼型の違いについて解明できれば肥満の予防策につながるとテキサス大学の研究チームの柳沢教授は述べている。

【文献】

Mieda, M. et al.: The dorsomedial hypothalamic nucleus as a putative food-entrainable circadian pacemaker. Pro. Nat. Acad. Sci. USA Online Jul. 31 (2006) [doi: 10.1073/pnas.0604189103 (Neuroscience)]



2006/08/03 スイカを室温で保存するとリコピンなどが増加

 スイカに含まれるリコピンやβ-カロテンは、冷蔵庫で冷やさず室温で保存すると、収穫後も次第に増加すると、アメリカ・農務省の研究チームが発表した。

 完全に熟したと判断したスイカを、収穫後14日間、21℃、13℃、5℃に保存した結果、室温に近い21℃で保存したスイカは、収穫したばかりのスイカと比べ、β-カロテンが50-139%、リコピンが最大40%増えていることが分かった。

 一方、低温で保存したスイカでは増加率が低かった。

【文献】

Perkins-Veazie, P. & Collins, J.K. : Carotenoid Changes of Intact Watermelons after Storage. J. Agric. Food Chem. 54: 5868 -5874. (2006) [doi: 10.1021/jf0532664]








2006/07/26 史上最高の熱安定性を持つタンパク質

 超好熱菌Pyrococcus horikoshii由来のCutA1(銅イオンと関わるタンパク質)の中性付近での熱変性温度は148.5℃であると理化学研究所などの研究グループが発表した。このタンパク質の熱安定性は、今まで知られていた最も熱安定性の高いタンパク質よりも30℃近くも高い。CutA1タンパク質が約150℃という史上最高の熱安定性を示す理由はタンパク質分子表面のイオン結合にあることが明らかになった。

 タンパク質は、熱やpHの変化など、わずかな環境変化で変性するが、温泉の源泉付近など、水の沸騰点近くで生育する微生物が生産するタンパク質は、熱安定性が高いことが知られている。超好熱菌から見つけられたCutA1タンパク質は、イオン結合の数が他タンパク質よりも非常に多く、イオン結合のネットワークを形成している。このイオン結合のネットワークが分子表面で層を形成していてタンパク質分子の断熱材として働くために、150℃近くまで安定して構造を保つことができるとしている。

【文献】

Tanaka, T. et al.: Hyper-thermostability of CutA1 protein, with a denaturation temperature of nearly 150℃, FEBS letters 580: 4224-4230. (2006)



2006/07/22 日本近海に2種類のマンボウが生息

 広島大学の研究から日本近海にマンゴウが2種類いる可能性があることが分かったと毎日新聞が伝えている(06/7/14)。

 ミトコンドリアDNAの解析から2種類のうち1種類は豪州近海に生息するマンボウに似ていることから、断定はできないが、約7500キロ離れたオーストラリアと日本を回遊している可能性があるとしている。

 国内で捕獲された標本など約70体のマンボウのミトコンドリアDNAを解析し、太平洋側に生息する全長約3mの大型(A群)のマンボウと、太平洋・日本海の両側に生息の約1.3mの小型(B群)の2群の存在が分かった。


【文献】

吉田有貴子ら.日本周辺海域に出現するマンボウMola molaのミトコンドリアDNAを用いた個体群解析.DNA多型.13: 171-174. (2005)

相良恒太郎ら.日本周辺海域に出現するマンボウMola molaにみとめられた2つの集団.魚類学雑誌 52: 35-39. (2005)



2006/07/15 世界初:ES細胞からマウス誕生

 万能細胞とも呼ばれる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)からつくった精子を卵子と受精させ、マウスの子を誕生させることにドイツ・ゲッティンゲン大の研究チームが成功した。

 ES細胞から精子や卵子ができたとの報告はこれまでにもあったが、子どもに育つ能力を証明したのは世界で初めてである。理論的には人間でも実現可能なことを示した。だが、生まれたマウスには早死になどの異常がみられた。

 研究チームは、マウスのES細胞の中から特定のたんぱく質をマーカーとして精子のもとになる細胞を単離し、試験管内で精子へと成熟させた。それを微細なガラス棒で卵子に注入受精し、雌マウスへの移植で計7匹のマウスが生まれ、うち6匹はおとなに成長した。

 しかし、6匹とも体が大き過ぎたり小さ過ぎたりしたほか、通常は数年とされる寿命より短い5カ月以内に死んだことから、研究チームは技術的には未完成としている。

【文献】

Nayernia, K. et al.: In Vitro-Differentiated Embryonic Stem Cells Give Rise to Male Gametes that Can Generate Offspring Mice. Dev Cell. 11: 125-132. (2006)



2006/07/14 肉食恐竜ティラノサウルスの生命表

 最大級の肉食恐竜ティラノサウルスは、寿命の半分ほどのいわば「中年期」から、命を落とす個体が急増していたとアメリカ・フロリダ州立大などの研究チームが発表した。

 カナダ・アルバータ州で発掘された22個体のティラノサウルスの骨の成長線を調べた結果、2~28歳とさまざまな成長段階の個体が含まれていることが分かった。

 年齢ごとの生存率を推定した結果、生まれて間もない時期に60%は死ぬが、2歳(体長約2m)まで生き延びるとその後13歳まで生存率はあまり減らない。ところが、繁殖可能になるとみられる14歳から生存率が急激に落ち、28歳程度まで生きて、体長約10mに達するのは全体の2%しかいないことが分かった。

 2メートルの体長は他の捕食者から身を守るのに十分な大きさだが、繁殖期には雌の取り合いなどの争いが増え、傷を受けるなどが原因で死亡個体が増えた研究者らは推測している。

文献】

Gregory M. Erickson, G. M. et al.: Tyrannosaur Life Tables: An Example of Nonavian Dinosaur Population Biology. Science 313: 213 - 217. (2006) [DOI: 10.1126/science.1125721]



2006/07/11 OECD-FAO:世界農業見通し2006

 経済協力開発機構(OECD)と国連食糧農業機関(FAO)は、2015年までの世界農業見通しOECD-FAO Agricultural Outlook2006-2015を発表した。OECDは世界の農産物需要の伸びが主要15品目のうち14品目で世界人口の年平均増加率見通しである1.1%以上に達すると述べている。特に最貧国で輸入への依存が高まり、食糧の調達が国際商品相場の変動による影響を受けやすくなると予測している。

 将来の農畜産物の貿易ではブラジル、インド、中国の重要性が増すとした。また、中国の輸出動向が世界の食糧需給のカギを握ると指摘している。

 エネルギー関連では、化石燃料の代替えとしてバイオ燃料の需要が増すと予測している。

OECD-FAOのプレスリリース下記のサイトで読める。
http://www.fao.org/newsroom/en/news/2006/1000349/index.html



2006/07/03 ノルウェーが種子バンク「ノアの箱舟」

 ノルウェー政府は北極圏の島に設けた貯蔵庫に、世界各地の農作物300万種類の種子を集め、絶滅の危機に備えて保管する計画であるとBBCなどが伝えている。種子バンクは、自然災害や戦争、病害、気候変動などによってその土地の農作物が絶滅し、多様性が失われる事態を防ぐためノルウェーが建設する。

 建設地は北極点から約1000kmのノルウェー領スバルバル諸島で、永久凍土の中にコンクリート製の貯蔵庫を作り種子を保管する。庫内の気温は温度維持システムで低温に保たれるが、万一システムが故障しても、気温が0℃を超えることはなく、種子は数百年または数千年先まで保管できるという。

 植物の絶滅に備える種子バンクは、世界各地にすでに約1400カ所設けられているが、その大半は自国の植物のみを対象としている。災害や戦争、財源不足などによって貯蔵施設を維持できない可能性があることから、20年以上前から世界規模のバンク設立が検討されていたものの、種子の遺伝子の所有権などをめぐる問題が解決せず、実現が遅れていた。

 スバルバル諸島の構想では、種子を提供する国が所有権を保持し、銀行の貸金庫を使うような形でノルウェー所有のバンク施設を利用する。種子の受け入れは、07年9月に開始される予定である。

ノルウェー農業食料省のプレスリリースは下記のサイトで読める。
http://odin.dep.no/lmd/english/news/news/049051-070027/dok-bn.html



2006/07/02 アリは体内の「歩数計」で距離を把握

 アリは、歩数を数えることで、移動距離を正確に把握している可能性の高いことをドイツのウルム大などの研究チームが発表した。

 研究チームは、距離測定は歩数で行うとの仮説を立て、アフリカのサハラ砂漠に生息するアリの脚の長さを変えて実験した。

 巣穴から10m離れた場所でエサを与えたアリを、1)ブタの毛を竹馬のように履かせて脚を長くする、2)一部を切断して脚を短くする、3)何もしない、の3群に分け、巣穴に戻れるか調べた。ところ、足を長くしたアリは10mを越え、足の短いアリは10mより短い位置で巣を探す行動をした。

 次に、巣穴からエサの位置まで歩かせて、戻る距離を測ったところ、3つの群ともに正確に10mの位置の巣穴に戻った。

 以上の結果から、研究者らはアリは巣までの距離を把握するのに体内の「歩数計」を利用していると結論づけた。

【文献】

Wittlinger, M. et al.: The Ant Odometer: Stepping on Stilts and Stumps. Science 312: 1965-1967. (2006)

 この研究の特徴的な点は、アリの足の長さを長くするテクニック、巣穴を探す行動などアリの生態の理解、統計的な手法である。理科自由研究の延長のような研究であるが興味深い。



2006/07/01 雷雨の中での携帯電話は危険

 雷雨の中で携帯電話を使うのは危険であるとイギリスの医師たちが医学雑誌で警告している。携帯電話の金属が雷を誘導し、そのためショックを受けて死亡する可能性があると述べている。15歳の少女はロンドンの公園で電話中、落雷に打たれて心臓停止になった。この場合は、その後の蘇生により回復したが、注意が必要としている。

【文献】

Esprit, S. et al.: Injury from lightning strike while using mobile phone. BMJ. 332: 1513 (2006) [doi: 10.1136/bmj.332.7556.1513-b]