2004年

2004/12/29

 京都大の篠原隆司教授らのグループが生後すぐの精子を作り出す細胞(精巣)の中に「万能細胞」を発見したと科学雑誌セルに報告した。

 Kanatsu-Shinohara M, Inoue K, Lee J, Yoshimoto M, Ogonuki N, Miki H, Baba S, Kato T, Kazuki Y, Toyokuni S, Toyoshima M, Niwa O, Oshimura M, Heike T, Nakahata T, Ishino F, Ogura A, Shinohara T., (2004) Generation of pluripotent stem cells from neonatal mouse testis. Cell, 119:1001-1012.

 再生医療への応用が研究されている受精卵の胚性幹細胞(ES細胞)と同じ機能を持つ「万能細胞」は、精子のもとになる精子幹細胞を培養する研究のなかで見つかり「多能性生殖幹細胞(mGS細胞)」と名づけられた。ES細胞のように、筋肉や血液、神経などの体細胞や生殖細胞など多種類の細胞になりうると述べている。しかし、ES細胞と違い、オスだけがいれば作り出せる。

 ES細胞は胎児になる前の受精卵の細胞を利用するが、mGS細胞は生まれたあとの精巣を使うので、倫理的な問題は少ないと考えられ、再生医療の新たな技術として期待されている。



2004/12/28

 米科学雑誌サイエンス(Breakthrough of the year. Science, 306: 2001, 2010-2012 & 2013-2017 (2004))は、今年最大の科学的進歩として火星に水が存在していた「証拠」を見つけた米航空宇宙局(NASA)探査車の成果(On Mars, a Second Chance for Life)を第1位に選んだ。NASAが火星に送り込んだ2台の無人探査車「スピリット」「オポチュニティー」について、「地球以外に生命が存在した可能性のある場所を発見するという、人類初の偉業を成し遂げた」と、高い評価を与えた。ドナルド・ケネディ(Donald Kennedy)編集長は「今年のトップにはほとんど異論がなかった」と強調している。特に、ロボット技術を駆使した探査車の性能に注目し、「火星や月への有人飛行計画を重視するあまり、ロボット探査をおろそかにするべきではない」と述べている。

 第2位は、「ホモ・フロレシエンシス」と名付けられた人類の化石の発見が選ばれた(The Littlest Human)。インドネシア東部のフロレス島で発見された身長1メートル、脳の容積は現代人の3分の1以下で、約1万8000年前まで現代人の祖先と共存していたとみられる。

 3位には、クローン研究が挙げられた(Clone Wars)。ソウル大のファン・ウソク(SukHwang)教授らのチームは最近、ヒトのクローン胚から、人体のあらゆる細胞に成長する能力を持つ胚性幹細胞(ES細胞)を作ることに成功したと発表した。

 4位は、超低温で現れる物質の状態「ボーズ凝縮」(Deja Condensates)を、「フェルミオン(fermion)」粒子により高い温度で実現した研究。

 5位は、遺伝情報を持たずジャンク(くず:)と呼ばれていたDNA(Junk DNA)に重要な役割があることを指摘した研究(Hidden DNA Treasures)。

 6位は、新たな中性子星の発見(Prized Pulsar Pair)。

 7位は、絶滅危機にある生物についての新たな報告(Documenting Diversity Declines)。

 8位は、水を取り巻くなぞに迫る研究(Splish, Splash)。

 9位は、世界各地で進む官民共同の医薬品開発(Healthy Partnerships)。

 10位は、海水や地中から採取された新種の遺伝子の解明(Genes, Genes Everywhere)。



2004/12/21

 中国北部、黄河近くにある河南省の村で、9000年以上前の陶器のつぼから、世界最古とみられるワインの残留物を見つけたと、アメリカ科学雑誌「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」に発表された。 (McGovern, P.E. et all., Fermented beverages of pre- and proto-historic China. PNAS published December 8, 2004, 10.1073/pnas.0407921102) 。



2004/12/18

 魚類のえらは進化の過程で失われ、陸上の脊椎(せきつい)動物にはないと考えられてきたが、人の血中のカルシウム濃度を一定に保つ働きをする副甲状腺は、えらが変化したものであることが分かった (Okabe M, Graham A., Proc Natl Acad Sci USA, 51:17716-17719. (2004))。この成果はゲノム(全遺伝情報)を用いた解析から得られたもので脊椎動物が海から陸へ上がった進化の過程を解明する新たな手掛かりと考えられている。



2004/12/17

 植物において乾燥ストレスによって活性化するタンパク質リン酸化酵素を同定し、この遺伝子を利用して乾燥ストレスに強い植物を作製することに成功したと、理研の研究グループが報告している。

 水分不足や高濃度の塩類などの影響による乾燥ストレスは、植物の生育を著しく阻害し、世界の農業生産に深刻な影響を与えている。研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、乾燥ストレスによって活性化するタンパク質リン酸化酵素SRK2Cを同定した。さらに、SRK2C遺伝子をシロイヌナズナで過剰に発現させると、乾燥耐性が有意に向上することが明らにした。この遺伝子は、乾燥地帯などで農作物を栽培するのに有利な特性として応用期待が期待される。

 概要は理研の下記のサイトに掲載されている。
 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2004/041203/index.html



2004/12/06

 青森県西目屋村の尾太(おっぷ)鉱山跡地の廃水中から、最大で直径7.5センチの淡水性マンガン団塊が発見されたと報道された。マンガン団塊は深海底に大量にあり、将来の金属資源として注目されるが、陸上でマリモのように大きく「成長」した形で発見された例は珍しいという。

 マンガン団塊の形成に微生物が関与しているとみられ、そうした環境を調べれば、より短時間に価値の高いマンガン団塊を作り出せる可能性があるとのことである。

 興味深い発見である。マンガンの利用的価値、微生物によるミネラルの体内蓄積など、時間があればもう少し周辺を調べてみたい。



2004/12/04

 日本など10カ国・地域が1998年から進めてきたイネの全遺伝情報(イネゲノム)の完全解読が、12月中旬に完了する見通しとなったと毎日新聞が伝えている(04/12/02)。このことにより、ゲノムに存在する重要な遺伝子などの存在位置がこれまでより早く、正確に割り出せるようになり、栄養価の高い品種や病気・害虫に強い品種など、さまざまな品種改良に結びつくと期待される。今回の解読完了により、全体の95%にあたる3億7000万の塩基配列が99.99%の精度で、ほぼ切れ目なく解読されたという。





2004/11/28

 世界最高級のワイン「ロマネコンティ」が作られる赤ワイン用品種「ピノノワール」は、1370年から2003年までの収穫時期の記録が教区と市の記録文書に残っている。そこで、この資料を用いて生物気候学の観点から、産地であるフランス北東部ブルゴーニュ地方の春夏の気温変動を調べた結果を科学雑誌ネイチャー(Nature. 432: 289-290; doi:10.1038/432289a)に発表した。異常な猛暑の影響で、同国内だけで1万5000人近くの死者が出た昨年の春夏の気温は、分析できた1370年以降で最も高かったという。そのほか、1960-1989年は平均より5.86℃高く、1523年は4.10℃高いことがわかった。



2004/11/18

 長持ちする人工関節の開発について東京大のチームが英科学雑誌ネイチャーマテリアル(Nature Materials 3: 829-836 (2004))に報告した。人工関節は、骨折や骨粗鬆(そしょう)症、関節炎などで機能を失った関節の代わりに埋め込まれる。従来の人工関節はポリエチレン製が多く、長く使ううちに摩耗して微粉が生じるため、これを除こうとする生体因子によって、人工関節を固定している周囲の骨が壊れてしまう。

 今回報告された長寿命の人工関節は、新開発した生体になじみやすい有機化合物(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine (MPC))をポリエチレンの表面に化学的に結合させた生体適合ポリマーで作られており、摩耗による微粉末の発生を防ぐことが出来る。ネズミの実験では、周囲の骨が壊れる現象も全く見られなかったとしている。



2004/11/16

 肌や髪の毛を黒くするメラニン色素が、皮膚や髪の毛を作る細胞に運ばれる仕組みを理化学研究所のチームが解明し、イギリス科学雑誌Nature Cell Biology (doi:10.1038/ncb1197 (2004))に発表した。メラニン色素は、メラノサイトと呼ばれる細胞で合成され、細胞内の小胞(メラノソーム)に貯蔵される。この小胞が細胞内の深部から細胞膜近くまで運ばれ、さらに皮膚や髪の毛を作る別の細胞に受け渡されて、肌や髪の毛が黒くなると考えられている。そのため、このメラニン色素の輸送を制御できれば、美白や白髪予防ができると期待される。

 研究チームは、メラニンの入った小胞にある特定たんぱく質にエフェクター分子Slacが結合すると、小胞が細胞の深部から細胞膜近くへ運ばれること、また、細胞膜付近では別のエフェクター分子Slp2-aが小胞を細胞膜につなぎとめ、隣接する皮膚や髪の毛に受け渡す仕組みを解明した。このことから、このメラニンの輸送を阻害することで美白を保つことが出来ると期待されている。



2004/11/12

 アメリカの科学誌「ポピュラーサイエンス(Popular Science)」は、2004年の新製品大賞を発表した。この賞は、革新的な新製品を表彰するイベントで、今年で17回目。12部門で計100製品を選び、各部門ごとにグランプリが選定されている。アメリカ・エンルクス社の35年以上使える家庭用LED電球、日本のシャープのノートパソコン、パイオニアのDVDプレーヤー「DVJ-X1」や、東芝の0.85インチ超小型ハードディスクドライブ、ニンテンドーDSなどが入選した。

  2004年の結果は下記のサイトで
 http://www.popsci.com/popsci/bown/2004/grand



2004/11/10

 磁石に強く引きつけられる性質(磁性)を持つ新しい液体を合成することに、東京大の浜口宏夫教授らが成功したと共同通信が9日伝えている。磁石の粉末を油に交ぜた従来の磁性流体などに比べ常温でも安定しており、分離しにくいなどの特徴がある。磁性を持つ塩化鉄酸などを使ってイオン液体を合成したところ、液体自体にも磁性が確認された。通常の液体では分子がバラバラになっているのに対し、イオン液体の場合は、部分的に分子が整列した状態になっているとみられ、この部分が磁性の発揮に関連しているらしい。

磁性を持つ液体化合物の薬への応用の可能性

 病気になって病院に行くと、薬があたえられる。しかし、体内に注入された薬は、血管を通して全身をめぐり、病気を引き起こしている患部にだけ薬が作用するわけではない。体中に回った薬は、患部以外の部分にも影響をあたえ、副作用をおこすことがある。そのため、副作用を防ぐには、薬が必要な患部だけに作用するようにすればよい。こうした考えで研究されている薬が、「標的指向性ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)」または、「ミサイルドラッグDDS」と呼ばれる新しい投薬法である。こうした「ミサイルドラッグDDS」は、21世紀の夢の製剤として期待され、世界中の研究機関が研究・開発に取り組んでいる。

 浜口教授らの開発した磁性の物質に薬を包み込んで、磁石で、患部の細胞だけに薬を与えれば、薬の量を減らせるばかりでなく、副作用も抑えられる。つまり、必要な時に、必要な場所へ、必要な量だけ薬を運ぶことができると考えられる。今後の研究の進展が楽しみな研究成果である。

簡単に言うと
 薬を閉じこめた磁気を帯びた液体をミサイルとして、身体の外から磁石でミサイルを患部へ誘導して薬を投薬(投下)する。



2004/11/05-06

 2世紀半ばごろの古代ローマ人の化粧クリームと思われるものが見つかったと科学雑誌Natureに発表された(Evershed, RP et al., Nature 432:35-36 (2004))。クリームは、現代の化粧品にも劣らない質の高さだという。古代ローマ寺院の発掘作業中に研究者らが発見した。缶の中には、羊か牛のものと思われる動物性の脂肪とでんぷん、酸化スズを混ぜ合わせたクリームが入っていた。このクリームは、ローマ人の女性のファンデーションのようなものだったのではないかと推察されている。ローマ時代には、色白がはやっていたのだろうか。

科学的推理の過程(原著論文を読んで)

 掘り出されたのはスズの缶で大きさは手のひらにはいるくらい(直径60mm深さ52mm)である。クリームの内容を調べるため、有機化合物の分析を行った結果、炭素が50%、水素が8%で窒素や硫黄は見いだされなかった。そのため窒素を含むアミノ酸で構成されるタンパク質の可能性はなくなった。そこで、クリームをクロロホルムとメタノールに溶かしたところ良く溶け、40%は脂肪酸であった。さらに詳しく調べると、動物由来の脂肪酸にしか見いだされていないC18:0の脂肪酸が高濃度に存在していた。そこで、このクリームは動物由来の脂肪であると考えられた。さらに詳しく調べるとその脂肪酸組成が羊か牛の脂肪酸組成に非常に近いことが分かった。

 香気成分についてヘッドスペースガスクロマト質量分析計で分析したが、香り成分は見いだされなかったので、香水は含まれていないと判断された。

 脂肪酸以外の成分について分析したところデンプンであることが分かった。さらに、ミネラルについてX線解析を行ったところ酸化スズが見つかった。

 以上の結果から、皮膚に塗るクリームではないかと推察された。また、このクリームには、現代の美容でも使われているデンプンが入っていることから美容技術の高さを示していると考えられる。

 当時のローマ人は美白のため酢酸鉛を使っていたことは知られていたが、今回のクリームの発見は初めてのことである。また、酢酸鉛は毒性があるが、酸化スズには毒性がないこともこのクリームの製造者の技術の高さを示している。



2004/11/04

 訃報:世界的に知られた生化学者で前神戸大学長の西塚泰美(にしづかやすとみ)博士、72歳が4日、くも膜下出血のため死去したと毎日新聞が報じた。

 西塚博士は、人間をはじめとする生物で、細胞の内部に情報を伝える役割を担う酵素「カルシウム依存性たんぱく質リン酸化酵素」(プロテインキナーゼC)を、77年に牛の脳から発見した。西塚博士の論文は、81~90年の10年間で世界の全科学領域で引用件数が第1位となり、ノーベル医学生理学賞の有力候補に目されていた。我が国におけるカルシウムの研究は世界でも最高水準にあり、西塚博士はその第一人者であった。

 私もリンゴやナシなど果実におけるカルシウムの役割についての研究を行う際、西塚博士の論文や考え方を大いに参考にさせて頂いた。そして、このカルシウムの研究から従来の貯蔵期間より5倍鮮度を保持できる冷温高湿貯蔵を開発することが出来た。

 毎年、ノーベル賞の発表時にはかなり期待していたので残念である。博士のご冥福を祈る。





2004/10/31

 ヒト科ヒト属の新種とみられる化石が、インドネシア東部のフロレス島で発見された。身長1メートル弱の女性らしい化石で、少なくとも約1万8000年前まで生存していたと見られる(Brown P., et al., A new small-bodied hominin from the Late Pleistocene of Flores, Indonesia. Nature, 431: 1055 - 1061 (2004): Morwood M. J., et al., Archaeology and age of a new hominin from Flores in eastern Indonesia. Nature, 431: 1087 - 1091 (2004).)。フロレス島西部にあるリアン・ブア洞窟(どうくつ)から見つかったのは、女性と見られるほぼ全身大の化石のほか、別個体7人分の骨や歯など。頭蓋(ずがい)骨の大きさは現代人のものより小さく、脳の大きさは約3分の1程度。あごと歯が残っていた。発見場所にちなんで、「ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)」と名付けられた。

 下記のNatureのサイトで要約や頭蓋骨の写真が見られる(この研究に対するリポートは無料でアクセスできる)。
http://www.nature.com/news/specials/flores/index.html

下記のCNNのサイトでも何枚かの写真が見られる。
http://www.cnn.com/2004/TECH/science/10/27/



2004/10/24

 月と地球の間に働く引力が、地震の引き金になっている可能性が高いことが、カリフォルニア大と防災科学技術研究所が報告している。地殻のひずみがたまり地震が起きそうな状態で、引力が「最後のひと押し」になるとのこと。

 新潟の干潮時刻を調べると23日は午後5時56分で、今回の地震が起きた時刻と同じである。確かに関係があるようだ。



2004/10/23 23:50

 新潟県中越地方で、午後5時56分ごろマグニチュード6.8の地震があり、新潟県小千谷市で震度6強の激しい揺れが観測されたと報道されている。その後も震度6強の地震が2回、震度6弱の地震が1回起きるなど強い余震が続いている。地震の強度から被害が大きいと推察されるので心配である。電話がつながらない。

 気象庁の地震速報は下記で見られる。情報が、非常に早い。
 http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jp/quake/

 地震の震度は0から7までの10段階であり、今度の地震は強いものから2段階目である。震度6強とは、人は立っていることができず、はわないと動くことができない。固定していない重い家具のほとんどが移動、転倒し、戸が外れて飛ぶことがある。 多くの建物で、壁のタイルや窓ガラスが破損、落下する。補強されていないブロック塀のほとんどが崩れる。耐震性の低い住宅では、倒壊するものが多い。耐震性の高い住宅でも、壁や柱がかなり破損するものがある。耐震性の低い建物では、倒壊するものがある。耐震性の高い建物でも、壁、柱が破壊するものがかなりある。ガスを地域に送るための導管、水道の配水施設に被害が発生することがある。

 気象庁震度階級関連解説表は下記
 http://www.kishou.go.jp/know/shindo/kaisetsu.html



2004/10/22

 カンキツなど植物由来のリモネンと二酸化炭素を原料として生分解性のポリカーボネートが合成できたとコーネル大学のグループが科学雑誌に報告した(J. Am. Chem. Soc.126:11404-11405 (2004))。今まで二酸化炭素と石油系のエポキシドからも生分解性のポリカーボネートは合成されていたが、今回、カンキツに含まれているリモネンを原料にして触媒を用いて温和な条件下で合成に成功した。リモネンは世界中にある約300の工場で年間数万トン作られていることから商業的に利用可能であるとしている。二酸化炭素と再生可能な資源から生分解性プラスチックを作るこの方法は環境面からも期待できるとしている。



2004/10/20

 「難解な研究の成果を国民に分かりやすく解説できるよう、国の音頭でサイエンスライターを育てるべきだ。」と文部科学省の科学技術・学術審議会の部会が骨子案にまとめたと朝日新聞が伝えている(04/10/20)。

 学問の専門化、細分化が進み、専門家同士でも最先端の研究を理解するのは難しいとして、国を挙げて人材育成に乗り出すべきだとしている。骨子案では「国がイニシアチブをとって、サイエンスライターを育て、日本全体の科学のレベルを上げる方策を検討すべきだ」と盛り込んだ。この中で、科学誌だけでなく、一般誌でも研究成果が取り上げられるように、研究成果を分かりやすく、解説できる人材を育てることが重要と分析した。

 また、国の研究費からライターへの経費支出を認める必要性も指摘した。さらに、研究成果の発表ができるホームページの開設や科学ジャーナルの刊行の支援も必要と盛り込んだ。「納税者である一般の国民に対しても、各家庭レベルでその価値と研究の重要性を分かりやすく説明することが重要」とした。

 上記のもととなる科学技術・学術審議会学術分科会、研究費部会(第2期第13回)議事録(2004年6月25日)は下記のサイトにある。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/gijiroku/002/04100601.htm



2004/10/18

 中国東北部の遼寧省で眠ったままの姿とみられる恐竜の化石が発見された。中国科学院の考古学者らが、英科学誌(XING XU, MA. NORELL, A new troodontid dinosaur from China with avian-like sleeping posture. Nature 431, 838- 841(2004) )に発表した。化石は1億3000年ほど前の恐竜とみられ、体長約53センチ。一般に恐竜の化石は、首を後ろにのけぞらせた姿勢で発見されることが多いが、この化石は、頭を前腕の下に潜らせた姿で見つかった。これは睡眠中の鳥類によくみられる姿勢であるとのこと。骨格の特徴などからみても、鳥類の祖先である可能性が高いという。



2004/10/10-11

 マサチューセッツ工科大(MIT)は、ホウレンソウを使った「太陽電池」を開発した。植物の光合成は、光のエネルギーを利用して有機物をつくるが、この働きを発電に応用した。光合成を担うたんぱく質が働くためには、水と塩が必要であるが、固体電池には両者とも致命的である。そこで、研究チームは、ペプチドで出来た膜の中に、光合成を担うたんぱく質を包み込む方法を考え、この方法を用いると乾燥状態でも長持ちすることを発見した。そこで、入手が簡単なホウレンソウから抽出した光合成を担うたんぱく質複合体を使い、ガラスと特殊な半導体で挟んだサンドイッチ構造のソリッドステート光合成太陽電池を作成した。この方法で作成された電池にレーザー光を当てると、弱い電流が生じた。「今回の電力変換効率は12%くらい。多層構造にするなどの工夫で、実用に耐えうる20%を突破したい」と研究チームは説明している。

 MITのニュースサイトは下記。ほうれん草太陽電池の写真も掲載されている。
 http://web.mit.edu/newsoffice/2004/spinach-0915.html

 アイデアとしては今までもあったが、MITのグループの光合成タンパク質を固定するペプチドの発見は独創的である。将来は、携帯電話など応用したいとの期待を持っているようだ。



2004/10/08-09

 10月4日の本欄で有人宇宙船スペース・シップ・ワンの飛行成功で、宇宙観光時代の到来が近いと書いたが、宇宙観光産業として成り立たせるためにはリスクの評価など様々なハードルがある。例えば、乗客に、宇宙旅行の危険性について情報を知らせる必要があるが、何を知らせなければならないかが、まだ明らかにされていない(リスクに対するインフォームド・コンセプトの必要性)。身体的能力が異なれば、リスクの程度も当然異なる。そのため、一般の人を乗客として乗せるためには、宇宙空間でおきる重力変化による心理的・医学的要因の変動について研究が必要である。

 また、スリルを求める人が乗る場合のリスクと一般乗客のリスクの程度も異なり、一般乗客のためには非常に高い安全性が確保される必要がある。こうした問題を解決しないと宇宙観光事業は成功しない。そのため、アメリカ政府は、新産業として期待される宇宙観光事業についての検討を始めたようだ。今回の件も含めて、アメリカは、研究レベルから産業レベルへ展開する場合の対応に優れていると感じた。



2004/10/06

 本年度のノーベル化学賞が発表された。イスラエル工科大のアーロン・チカノバー教授(Aaron Ciechanover :57)とアブラム・ハーシュコ教授(Avram Hershko :67)、カリフォルニア大アーバイン校のアーウィン・ローズ博士(Irwin Rose :78)が受賞した。残念ながら今年は科学部門での日本人の受賞はなかった。

 受賞理由は、「ユビキチンが仲介するタンパク質分解の発見について」("for the discovery of ubiquitin-mediated protein degradation")である。3氏は、生物の細胞内では、必要なたんぱく質の合成と、不要になったたんぱく質の分解が常に行われているが、たんぱく質の合成に失敗した不完全なタンパク質には「目印」がつけられ、その目印だけを選んで壊す仕組みを発見した。この目印は、たんぱく質の一種である「ユビキチン」である。ユビキチンが関係するタンパク質分解は、細胞分裂やDNA修復、タンパク質合成、免疫防御など、生物が生きていくうえで重要な役割を担っている。このたんぱく質分解の仕組みに異常が起きると、パーキンソン病やがんが発現すると考えられている。

http://nobelprize.org/chemistry/laureates/2004/



2004/10/05

 ノーベル物理学賞が発表された。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のデビッド・グロス教授(David J. Gross 63)と、カリフォルニア工科大のデビッド・ポリツァー教授(H. David Politzer 55)、マサチューセッツ工科大のフランク・ウィルチェック教授(Frank Wilczek 53)の3人が受賞した。3氏は、物質を形作る究極の基本粒子「クオーク」がなぜ単独で取り出せないかを理論的に解き明かした。(受賞理由:"for the discovery of asymptotic freedom in the theory of the strong interaction")
http://nobelprize.org/physics/laureates/2004/



2004/10/04

 2004年のノーベル医学生理学賞を、米コロンビア大のリチャード・アクセル(Richard Axel)教授(58)と米フレッド・ハッチンソンがん研究センターのリンダ・バック(Linda B. Buck)博士(57)に授与すると発表したと新聞各紙が伝えている。授賞理由は「におい受容体ときゅう覚系の機構の発見」("for their discoveries of odorant receptors and the organization of the olfactory system")。両氏は91年、におい物質を鼻の奥で受け止めて脳に伝える受容体が約1000種類あり、それぞれが個別の遺伝子からつくられていることを突き止めた。人間の全遺伝子(約3万種類)の3%もの遺伝子が、においの感知にかかわっていることを明らかにした。

 においは複数のにおい物質によって生じる。ひとつひとつの受容体は特定のにおい物質にしか反応せず、においごとに反応する受容体の組み合わせが異なる。人間はその違いを脳で認識し、受容体の種類を上回る種類のにおいをかぎ分けていた。

 両氏はその後、この仕組みが味覚やフェロモンによる性行動とも共通していることも解明した。バック博士は、アクセル教授の研究室で博士研究員として働き、91年に共著の論文を発表した。女性が自然科学分野でノーベル賞を受賞するのは95年以来とのことである。

 下記サイトで上記ノーベル賞の受賞者を発表している。ノーベル賞のメダルを見ることもできる。明日(5日)は物理学賞、6日は化学賞が発表される。ノーベル賞受賞者のインタビューなども動画で見ることができる。

 http://nobelprize.org/index.html

 Prize-Awarding Institution:The Nobel Assembly at Karolinska Institutetは下記サイト
 http://nobelprize.org/medicine/prize-awarder/index.html



2004/10/04

 米国の有人宇宙船スペース・シップ・ワンが4日早朝、カリフォルニア州のモハベ砂漠上空で2回目の宇宙飛行に成功し、無事帰還した。高度100キロを上回っており、2週間以内に2度の宇宙飛行を達成した民間チームに贈られる「アンサリX賞」(ANSARI X PRIZE)の賞金1000万ドル(約11億円)を獲得したと新聞各紙が伝えている。

 英ヴァージン・グループはスペース・シップ・ワンをもとにして5機の宇宙船をつくり、07年にも商用宇宙飛行を実現させると発表しているので、もうすぐ「宇宙観光」時代がやってくる。

 アンサリX賞のホームページは下記。ビデオも見られる。
 http://www.xprize.org/






2004/09/30

 理化学研究所は、「最も重い新元素」生成に成功したと9月28日に発表した。新元素の原子核は陽子113個と中性子165個でできており、原子番号は113番。今後、複数合成して再現性を確かめるなどしてデータが補強され、新元素と認められれば、国際学会から研究チームに元素の命名権が与えられる。日本にちなんだ「ジャポニウム」や理研にちなんだ「リケニウム」などの名前が候補にあがっているそうである。

 世界最高のビーム強度を有する理研線形加速器を80日間連続稼働させて得られた実験結果から、陽子数113個の新元素の原子を1個確認した。この原子は放射線を出し、約1万分の3秒後により軽い元素に変わった。

http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2004/040928_2/index.html
Morita, K., et al. Experiment on the Synthesis of Element 113 in the Reaction 209Bi(70Zn, n)278113. J. Phys. Soc. Jpn., 73(10):(in press)



2004/09/21

 化学離れが言われて久しいが、日本化学会はじめ多くの団体が、化学の普及のために様々な取り組みを行っている。今年の7月、ドイツのキールで開かれた第36回国際化学オリンピックで日本代表の高校生4人のうち一人が金メダル、三人が銅メダルを獲得した。数学のオリンピックは有名であるが、化学のオリンピックでもすばらしい成績を収めた。化学オリンピックは化学の総合力を競う大会で、実験問題と筆記試験で行われる(すべて英語)。プレス発表等は下記のサイトで。
http://edu.chemistry.or.jp/oly/delegateIChO361.html



2004/09/12

 中国遼寧省の白亜紀前期(1億3000万年前)の地層からプシッタクサウルス(Psittacosaurus)の親恐竜1頭と子恐竜34頭の化石が50cm四方の中に密集して発掘された(Nature 431, 145 - 146 (2004)) 。研究チームは「火山噴火や洪水が起こり、親子一緒の状態で化石になった」と推定している。

 は虫類であるワニや鳥類は子育てをするが、恐竜が子育てをしていたかどうかについては論争があった。しかし、今回の発見は、「恐竜が子育てをしていた確実な証拠だ」としている。

 今まで、巣の中で見つかった白亜紀後期(9900万~6500万年前)に生息したマイアサウラ(Maiasaura)の赤ちゃん恐竜の歯がすり減っており、足の発育が不完全だったため、親恐竜がえさを運んでいたと解釈されてきた。



2004/09/08

 これまで巨大なガス惑星しか見つかっていなかった太陽系の外で、海王星に近いサイズの小型惑星が、最近相次いで発見され、今後さらに研究が進めば、生命体の存在が期待できる惑星が新たに登場するかもしれないとCNN(9/5付け)が伝えている。

 米カリフォルニア大バークレー校のジェフリー・マーシーらは、獅子座にある恒星の周りを回っている惑星を発見した。質量は地球の約21倍で、同約17倍の海王星に近いとのことである。また、米テキサス大オースティン校のバーバラ・マッカーサーらは、かに座の恒星の周りに地球の約18倍の惑星を発見した。地球からの距離は約41光年とはなれているが、3個の惑星があることが分かっており、太陽系内の惑星との共通点が指摘されている。

 「未知との遭遇」の夢を抱かせる話題である。



2004/09/07

 ロシア人科学者のグリゴーリ・ペレルマン博士が現代数学で「7大難問」の一つ、「ポアンカレ予想」を解決したとする主張について、米スタンフォード大学のキース・デブリン教授が6日、英国学術協会主催の科学フェスティバルで、「正しいと思われる」と述べた。証明が正しければ、ペレルマン博士は米クレイ数学研究所から100万ドル(約1億1000万円)の賞金を受けることになるとCNNが伝えている。

 ペレルマン博士は、この問題について誰とも議論せず、賞金にも興味を示していないようだ。また、ペレルマン博士は、自分の証明をインターネット上で公開しただけという。

 科学の成果もカネ、カネ、カネと言われているなかで、ペレルマン博士の行動は、何となくほっとさせる。





2004/08/04-05-06

 現在公式に世界最古の鳥とされている「始祖鳥(Archaeopteryx)」の頭部化石をCTスキャンで分析した結果、視覚やバランス感覚を制御する脳や内耳の一部が現代の鳥類(Avialae類)並みに発達し、十分に空を飛べたことがわかったと英科学雑誌Natureに報告されたと伝えている。(朝日新聞など)

 原著(Dominguez Alonso P., et al., Nature 430:666-669 (2004))に当たるとともに周辺を調べてみた。それによると、始祖鳥(大きさはカササギと同じくらい)は、原始的な恐竜であるコエルロサウルス類(中国鳥竜)と歯や骨のある尾などが共通している。一方、、始祖鳥の翼や羽毛配列は現生の鳥類と共通している。そのため、半分はは虫類で、半分は鳥であった。始祖鳥は、1961年、ドイツのバイエルンで発見された。その時から、始祖鳥が空を飛んだかどうかが議論されていた。飛ばなかったとする説は、始祖鳥の胸骨が発達していないためパワー不足であるとしていた。

 今回の研究は、始祖鳥が飛べたことを論証している。今までも、自力で飛ぶ能力がある程度備わっていたとみられていたが、始祖鳥の脳や特殊な感覚がどの程度関与していたか不明であった。そこで、ロンドンの標本を用いて調べたところ、始祖鳥は視覚の比重が大きく、耳の聴覚や空間知覚が優れている点で現生鳥類に非常に近いことが分かった。すなわち、バランスを制御する内耳構造が鳥と同じであるなど、飛ぶのに必要な鋭い感覚、動作、バランス制御が整っているとした。従って、始祖鳥は神経及び構造面で飛ぶのに必要な新たな適応を遂げていたと著者らは結論づけている。そうすると、1億4700年前、ドイツのバイエルン州(州都ミューヘン)の上空を始祖鳥は飛び回っていたのでしょうか。





2004/07/27

 世界で一番小さい魚(脊椎動物)を知ってますか。シドニーのオーストラリア博物館の研究誌の最新号(Records of the Australian Museum. 56: 139-142.(2004))で世界で最も小さく、最も軽い魚の発見について発表している。この魚はスタウト・インファントフィッシュ(Stout Infantfish)で、成魚の重さは1ミリグラム。体長はオスが最大7ミリメートル、メスは8.4ミリメートルとのこと。これまで確認された世界最小の脊椎動物はドウォーフ・ゴビーフィッシュという魚で、オスは体長8.6ミリメートル、メスは8.9ミリメートルとされていた。

 スタウト・インファントフィッシュは透明な魚で、1カ月ほどで成魚になり、歯やうろこ、ひれはない。オーストラリア、クイーンズランド州のグレート・バリア・リーフ周辺で採取された。

 下記で写真が見られる。
http://www.amonline.net.au/fishes/fishfacts/fish/sbrevip.htm



2004/07/23

 イスラエルの動物園で飼育されている5歳の若いサル(黒いマカク属の猿:black macaque)が、突然2本の脚だけで歩くようになったとCNNが伝えている。まるで人間のようにまっすぐに立ち、歩く姿は下記のサイトで見られる。確かに手を使わずに二本の足で歩いているが、両手は前にある。ただ、幼児のように、両手をまっすぐ前に出しているのではなく、下げている。

 このサルは、テルアビブ近郊の動物園の「ナターシャ」で、2週間前、ほかのサル3匹と共にウイルス性胃腸炎と診断され、園内で治療を受けた。ナターシャの症状は悪化し、呼吸や心拍にも異常が出るほどの重体になり、一時はスタッフも別れを覚悟したが、懸命に治療を続けた結果、ようやく回復したという。

 ナターシャは元通りすっかり元気になったが、1つだけ以前と変わったのは、歩く時に前脚を使わなくなり、後ろ脚だけを使い、ぴんと背筋を伸ばした姿勢で歩き出した。

 担当の獣医も「こんな例は見たことも聞いたこともない。説明として考えられるのは、病気による脳の損傷と考えられる。そうでなければ元に戻るはずだ」と言っている。

 担当獣医のコメントが気にかかる。まだ、若いサルなのでいつまで二本足歩行が続くのかも興味がある。ヒトの進化と関係があるのだろうか。二本足歩行は、ヒトの進化の上で重要なポイントである。すなわち、前足が解放され、足から手へと機能が向上したことが、ヒトを他の動物から分ける点であると考えられているためである。

http://www.cnn.com/2004/WORLD/meast/07/22/monkey.walking.ap/index.html



2004/07/22

 ケンブリッジ大学の宇宙物理学者であるスティーブン・ホーキング博士が、自説のブラックホール理論を修正したとCNNが伝えている。

 今まで、ブラックホールは、重力が強すぎて光も脱出できない天体で、ブラックホールが飲み込んだ物質の情報は、ブラックホールが「蒸発」するとき消滅し、新しい「赤ちゃん宇宙」が誕生すると考えられていた。

 今回、ホーキング氏は、ブラックホールが「蒸発」する際に、飲み込んだ物質の情報が宇宙空間に放出されると述べ、自説を修正した。すなわち、ブラックホールに飲み込まれていた物質の情報は、われわれのこの宇宙にとどまるとした。

 多くのSF小説やSF映画は、今までのホーキング博士の理論に従い、ブラックホールを使って別の宇宙に旅することを描いてきたが、これからはこの設定が使えなくなる。
 なんとなく残念な理論の修正である。



2004/07/21

 人類初、1969年7月20日にアポロ11号が月面に着陸してから35周年の記念式典が開催された。当時の写真やビデオを掲載したNASAのサイトは下記にある。あの時を思い出す。また、35年もたったのだとも思う。

http://www1.nasa.gov/audience/forstudents/5-8/features/F_Apollo_35th_Anniversary.html






2004/06/23

 アメリカの民間チームが製作した有人宇宙船「スペース・シップ・ワン(SpaceShipOne)」は、米太平洋時間21日朝(日本時間22日未明)、高度100kmの宇宙空間を3分間余り飛行し、無事帰還した。

 宇宙船スペース・シップ・ワン(重さ約3トン)は3人乗りで、今回は、パイロット、マイク・メルビル氏(Mike Melvill , 62才)一人が乗り込んでいた。両手の親指を上げている姿は喜びいっぱいである。今回の成功は、国家予算を使わない民間初の有人宇宙飛行であるが、それだけではない。例えば、日本で打ち上げられていれば、日本初の有人宇宙飛行船の成功となるほどの歴史的な出来事といえる(ただし、日本人としては、スペースシャトルなどで宇宙に行っているが)。

「スペース・シップ・ワン」の飛行経過

 2004年6月21日午前6時47分ごろ、宇宙船を機体の下に取り付けた航空機が、カルフォルニア州モハベ砂漠の飛行場を離陸した。約1時間後、高度15kmで切り離された宇宙船は、ロケットエンジンを80秒間ほど噴射して音速の3倍まで加速し、高度100kmに到達した。3分間余り、無重量状態で飛行し、滑空して元の飛行場へ着陸した。

有人宇宙飛行の歴史

 世界最初の有人宇宙飛行は、ユーリ・A・ガガーリン氏(27才)の乗った旧ソ連のボストーク1号である。打ち上げ日は1961年4月12日である。バイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、地球周回軌道に入り、地球の大気圏外を1時間50分弱で1周した。ガガーリン氏の「地球は青かった」は、感動的な言葉である。

 世界で2番目に有人宇宙飛行を行ったのはアメリカで、アラン・B・シェパード氏が乗ったマーキュリー3号である。打上げ日は、1961年5月5日、飛行時間は、15分28秒であった。今回と同じ弾道飛行である。

 両者の日付はほとんど同じである。いかに、競争が熾烈であったかが分かる。しかし、アメリカは、旧ソ連に1歩及ばなかったことにショックを受け、当時のケネディアメリカ大統領は月に人間を着陸させる計画(アポロ計画)を決めた。このケネディ大統領の英断は評価に値する。なぜ、この決断を評価するかについては別の機会に述べたい。成果主義と呼ばれる評価システムではこの決断はない。



2004/06/21

 ヒト遺伝子のデータベースが日本を中心とする国際チームによって作成され、無料で利用できるようになった。生命の設計図であるヒトゲノム(ヒトの遺伝情報)は約30億個の塩基対でできているが、タンパク質を作る部分は5%ほどと考えられている。このタンパク質に係わる個々の遺伝子情報の公開は遅れていた。そこで、世界中から集めた相補的DNA(cDNA)から重複をのぞき21,037個のcDNAが、全塩基配列、生成するタンパク質の細胞内での働きや疾病との関係など詳しい情報をつけ公開された。

 cDNAを動物細胞や植物細胞などに組み込めば、目的のタンパク質が出来る。この組換え技術を使うと医薬品などの生産が可能であり、肝炎治療薬のインターフェロンなどが、この方法により作られている。ヒトのcDNAデータベースが作成されたことから、今後、医療への応用や医薬品の合成などの研究が活発になると考えられる。

 データベース名はH-InvDB(H-Invitational Databese)で公開サイトは下記である。
 http://www.jbirc.aist.go.jp/hinv/top.html

用語解説
 相補的DNA(cDNA:相補的デオキシリボ核酸)
 相補的DNAは、DNAを複製したmRNA(伝達リボ核酸)を基にして作られる遺伝子である。酵素などのタンパク質を作る部分を遺伝子と呼び、相補的DNAはその“金型”である。自然界にはないため『人工遺伝子』とも呼ばれる。



2004/06/18

犬に関する話題を2つ

 シェパードよりもチャウチャウの方がオオカミに近いと、アメリカの研究チームが遺伝子(DNA)を比較した結果をサイエンスに報告した(Parker, H.G. et al., Genetic Structure of the Purebred Domestic Dog. Science, 304, 1160-1164. (2004))。オオカミと外見が比較的似ているジャーマンシェパードはかなり遠縁で、むしろ柴犬や、チャウチャウ、秋田犬の方がオオカミに近いこと。また、この三つの中でチャウチャウと秋田犬が互いに近縁であるとしている。

 福岡県北九州市の洞くつからニホンオオカミの頭の骨が発見された。ニホンオオカミは、1万年ほど前から日本に生息し始め、体長も1メートルほどの小型のオオカミだったと考えられていた。しかし、100年ほど前に絶滅したため、起源や体格の移り変わりなど詳しいことはわかっていなかった。今回の骨からみると、からだ全体がこれまで考えられていたのより、1回り大きいとのこと。ニホンオオカミの実態を探る貴重な手がかりが得られた。(NHK on line 2004/06/18)



2004/06/17

 イギリスの研究グループは、遺伝子研究用のモデル植物として世界的に用いられているアラビドプシス(シロイヌナズナ)の遺伝子を組み換えて、長鎖不飽和脂肪酸であるアラキドン酸とエイコサペンタエン酸(EPA)を生産できることを明らかにした(Baoxiu, Qi., et al., Nature Biotechnology 22, 739-745 (2004))。

 今まで魚から供給されていたEPAなどの長鎖不飽和脂肪酸の供給源として高等植物も可能であることが示された。

用語解説
・アラキドン酸:n-6系必須脂肪酸。動物の体内においてアラキドン酸は、リノール酸から γ-リノレン酸を経て合成されるが、十分な量のリノール酸を摂取しても、体内合成だけでは不十分だと考えられている。

・EPA(エイコサペンタエン酸)は、魚に多く含まれている不飽和脂肪酸。血液の流れを妨げるコレステロールや脂肪を減らす働きがあると考えられている。動脈硬化や心筋梗塞、脳血栓などの予防効果が期待されている。



2004/06/14-15-16

 中国・遼寧省の白亜紀前期(約1億2100万年前)の地層から、世界で初めて翼竜の卵の化石が見つかった。化石の中には、赤ちゃん翼竜の骨格がほぼ完全な状態で保存されていた。イギリスの科学研究雑誌ネーチャー(Wang, X. & Zhou, Z. Nature,429, 623, doi:10.1038/429621a (2004))に掲載された写真を下記で見ることができる。

http://www.nature.com/nsu/040607/040607-6.html

 昆虫採集の好きな子供たちが、大きくなったら科学者になるケースは少なくない。恐竜の好きな子供たちも多い。そうした子供たちに上記の科学雑誌のコピーを見せてあげたらどうか。英文のため、読めないかも知れないが、写真を見ることで夢が広がるに違いない。そして将来、科学者になりたいと思うかも知れない。

 子供たちにもう一つ伝えてほしいことがある。それは、化石を見つけることは、とても地味な作業の連続であるということである。Wang氏とZhou氏は、毎日、毎日、化石を掘り出し、記録し、分類する作業を進めていたに違いない。ある日、ある場所に行って、1日探したら出てきたということはまずない。また、見つけた化石が、科学的にどのような意味を持つかを知るには、前人の研究をよく調べておく必要がある。そうしておかないと、新しい発見かどうか分からない。

 このことは、科学研究全般にも言えることで、研究は、地道な努力の連続で、つらい日も多い。しかし、新しい発見をしたとき、人知れず微笑むその瞬間は、それまでの苦労を吹き飛ばすほどの至福の時である。ただ、意外とこの至福の瞬間を知らない研究者がいる。それも少なくないのが残念である。また、この瞬間を論文が完成したときだと誤解している人もいる。

 科学的発見の瞬間を得るためにどうすればよいかについて、島津製作所の田中さんと同年(2002)にノーベル賞を受賞したバーノン・L・スミス氏は「自分の専門分野のルールを知って尊重し、それに従わないこと」と述べている。同じくリカルド・ジャコーニ氏は科学は金儲けのためにあるものではないとして、「自分自身の中にある何かによって自分が行動すれば、それを実現できる」と、語っている。



2004/06/12-13

 犬は基礎的な言語能力を備えていると、ドイツの研究チームがアメリカの科学研究雑誌サイエンス(Kaminski, J. et al., Science, 304, 1682-1683 (2004))に発表した。ボールや靴下、バナナなど約200語を区別できるだけでなく、全く新しいものが混じる中で初めて見るものをとってくるなど、言語を操る前提となる能力があることが分かった。

 この研究が注目される理由は、「消去法で言葉の意味を推測したり、学んだ知識を記憶したりという基礎的な能力を人以外の動物も持つている」と考えられることにある。イヌの写真は、下記の解説記事で見られる。オスで名前は「リコ(Rico)」、賢そうなイヌである。

http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/sci;304/5677/1605

下記のサイトでは、リコが、部屋から人形などをとってくる音声付き映像(Movie)が見られる(Natureのサイト)。
http://www.nature.com/nsu/040607/040607-8.html



2004/06/11

 映画「デイ・アフター・トゥモロー」では、二酸化炭素の大量排出に伴う地球温暖化によりロサンゼルスをハリケーンが襲い、大津波がマンハッタン島を呑み込む。地球温暖化を主題としたパニック映画である。

 このまま、二酸化炭素の排出が続くと、海面が数メートル上昇し、果樹地帯も北上すると予測されている。この科学的な予測に対して対策がとられるわけであるが、最も重要なことは二酸化炭素の削減であり、そのための研究が求められていることである。海面が上昇するからといって日本全土を数メートルの壁で囲むための工事や研究を始めることではない。原因と予測と対策を誤ると、今からマンハッタン島の住民を内陸に移動するようなおかしなことになる。また、同様に果樹地帯が北へ移動する可能性があるからといって不安をあおっても仕方がない。果樹農業についていえば、果実の値段を下げても品質を落とさず、果樹農家の利益も上がる省力化研究が重要ではなかろうか。



2004/06/09

 6月8日に金星が太陽面を通過したのは、日本では130年ぶり、世界的にも122年ぶりという珍しい現象だそうである。次回は8年後の2012年6月6日で、そのあとは次の世紀、2117年12月11日まで起こらないとのこと。こうした宇宙の出来事は、魅惑的で夢を誘う。

 横浜こども科学館が記録した金星の太陽面通過の画像記録は下記のサイトに掲載されている(ただし、天気が悪かったため完全な画像とは言えない)。
 http://astro.ysc.go.jp/2004VT-ysc6.avi

 下記のデンマークのサイトの画像はきれいである。
 http://www.rummet.dk/8af2774



2004/06/05
文部科学省が平成15年度の科学技術白書を公表 (04/06/04)

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/06/04060202.htm
 白書では、科学技術の発展が環境汚染や生命操作などの「負の遺産」を生んでいる現状を指摘し、その克服が必要であるとしている。

 世論調査からみると、暮らしの安全・安心への期待が高まっているが、一方で、科学技術に関心のある人は約53%まで減ってきている。そのため、「社会のための科学技術」となることを提言している。

 具体的には、社会との間で生じる負の側面を考えながら研究を進めることや、分野の壁を超えた研究の推進、研究者が社会に積極的に語りかける必要があると述べている。





2004/05/29
チンパンジーとヒトの遺伝子は8割以上異なる


 理化学研究所などでつくる国際共同研究チームがチンパンジーの22番染色体とヒトの染色体を比較した結果、生命の設計図であるゲノム(全遺伝情報)の暗号文字(塩基配列)の違いは約5%だったが、タンパク質を作る遺伝子の配列では8割以上で違いが見つかったと報告した。(毎日新聞、朝日新聞など 04/05/27)

 この報告は、とても興味深い。これまで、ヒトとチンパンジーの違いは1%位と考えられていたが、両者の違いは、意外と大きいことが分かった。そうすると、進化はどうなるのだろう。ヒトはアフリカで生まれたとされているが、その考え方と矛盾はないのだろうか。これだけ多くの遺伝子の変異が一度に起きたのだろうか。



04/05/18
北海道大学などのグループが、常緑針葉樹が寒さに耐え、成長できる仕組みを解明
(毎日新聞04/5/17)

 植物は、葉緑体と呼ばれる細胞小器官の中で、光のエネルギーを使って二酸化炭素と水からグルコース(ブドウ糖)などの有機化合物を合成し、成長する。ところが、外気温が下がると、葉緑体は光のエネルギーを使い切れなくなってしまう。そうすると、余分な光エネルギーは有機化合物を作らずに活性酸素を生成する。このままでは、発生した活性酸素によって、葉緑体が破壊されてしまうので、エゾマツなど北海道以北の常緑針葉樹の葉の葉緑体は、過剰な光を受けないように、細胞の表面から内部に移動する。

 すなわち、寒いと、光は葉緑体を破壊するので、植物は成長できない。ところが、寒い場所でも生育できる植物は、光による傷害を回避するため、葉緑体を細胞の内側に移動して隠してしまうのだそうである。

 独創的で、とてもおもしろい研究である。今後の研究の進展が楽しみである。



04/05/16
「17年ゼミ」羽化始まる 米東部で数十億匹予想
(毎日新聞、朝日新聞など)

 なぜ、17年に一度、セミが羽化するのかは不明なようだ。仮説はgoogleなどで検索すると読めるが、その前に、自分の仮説を立ててみてはどうだろうか。そして、その仮説を証明するための方法などに思いめぐらすとかなり楽しめると思う。17が素数というのも興味深い。ただし、17年ゼミといっても、今回はワシントン周辺での発生で、他の地域は別の年に羽化するとのことである。そのため、アメリカ全体では、17年ごとに発生するという分けではないようだ。



04/05/12
長崎大学が安心して食べられるトラフグ肝の無毒化に成功


 トラフグの肝には猛毒のテトロドトキシン(テトラドトキシン:tetrodotoxin)が含まれているが、フグ自身が毒素を合成するのではなく、フグの腸内細菌による合成、餌からの摂取で蓄積すると考えられていた。長崎大学のグループはこのことに着目して、毒のないトラフグの養殖技術を開発した(朝日新聞5/12)。

 ふぐを食べる習慣がある日本の研究は、世界的レベルにある。ふぐ毒は、1909年、東京大の田原良純らが最初に発見した。そして、テトロドトキシンの化学構造の決定には世界の有名な研究室がしのぎを削り、先陣争いを行った。その結果、1964年(東京オリンピック開催年)、京都で開かれた国際天然物化学会議において、名古屋大農学部の平田義正ら、東京大の津田恭介ら、ハーバード大のWoodward(ビタミンB12の合成でノーベル賞受賞)らの三グループが、同時に同じ構造を発表するというドラマチックな展開となった。毒素の全合成は、名伯楽といわれた平田門下の岸義人(名古屋大→ハーバード大)らが、さらに、不斉合成(光学異性体の選択的合成)は、同門の磯部稔(名古屋大)らが達成した。

 一方、フグ毒が生命科学の発展や難病克服に貢献してきたことはあまり知られていない。フグ毒は、イオンチャンネルにナトリウムイオンが流入するのを阻害することにより、人の神経を麻痺させる。フグ毒の研究が、突破口となり、イオンチャネルの確認と活性解明、チャネルタンパク質の構造解析など、革命的な発見につながり、生命科学の発展に大きく寄与した。



04/04/25
相対性理論の「予言」検証する衛星打ち上げ


 巨大な質量をもつ物体の周囲では時空がゆがんでいる。物理学者アインシュタインの「予言」を観測するため、米航空宇宙局(NASA)は20日、人工衛星GP―Bを打ち上げた。うまく行けば、1年半ほどのうちに結果が出る。

 光を曲げる重力レンズが宇宙空間に存在することなどから、アインシュタインが一般相対性理論(1916年)に書いた「予言」の正しさは、おおむね証明されている。今回のGP-Bは、地球の質量が周囲の時空をゆがめている様子を、初めて直接検出するのが目的だ。(朝日新聞 04/04/21)

 優れた研究は、既知の現象を説明できるだけでなく、未知の現象を予言できる。研究者で、このことを理解できないと、論文を量産しただけで終わる。



04/04/23

 4月15日から16日にかけて火星探査車スピリットの活動が100日を突破し、快調にコロンビア・ヒルズと名付けられた丘陵地帯を目指して走行している。一方、2号機のオポチュニティーも16日に81日目を迎えた。2台の探査車は、9月まで延長された火星探査期間の新たな段階に入った。(時事 04/04/17)

 このプロジェクトで火星に水が存在することが明らかとなった。NASAの研究者の喜びの顔をニュースで見て、こうゆう感動を共有したいなと思った。リスクを負いながらも、長く、淡々とした努力が報われた瞬間である。



04/04/22
 「マウス妊娠にオス不要? 卵子2つでメス誕生。 東京農大から報告」(毎日新聞、朝日新聞など 04/04/22) 

 世界が注目するであろうすばらしい研究だと思う。もとの論文をよく読んで、サイエンス欄に詳細を報告したいと考えているが、いつになるかは風まかせ。

Scientists conceive mouse with two moms
   Men, your gender just took a hit in the animal kingdom. Scientists report they've created mice by using two genetic moms -- and no dad.  (CNN 04/04/21)